5月21日(水)
緒方規矩子(きくこ)さんを偲ぶ会へ。
緒方さんは日本の舞台衣裳デザイナーの草分けであり第一人者でいらっしゃったが、今年2月7日に96歳で惜しくも亡くなった。
その功績や手がけられた数々の作品を語るには私は余りにも不適格である。なのでご一緒した作品のことだけを簡単に記したい。
緒方さんと初めてご一緒したのは、私が演出家デビューして間もない1998年、ブロードウェイ・ミュージカルの金字塔『サウンド・オブ・ミュージック』の時であった。
主人公の家庭教師・マリア役は大地真央さんで、緒方さんは既に宮本亜門さん演出の『サウンド・オブ・ミュージック』の時に衣裳デザインを担当されていらした(その時のマリアも真央さん)のだが、演出が私に変わった時に真央さんと共に緒方さんも続投され、新たなデザインを何点か起こしてくださった。
次にご一緒したのは、やはりブロードウェイ・ミュージカルのクラッシックである『南太平洋』であった。
第二次世界大戦中の南太平洋の島々が舞台で、駐留するアメリカ海兵隊と従軍看護婦たちをはじめ、「バリ・ハイ」と呼ばれる架空の島の人々の衣裳をデザインしていただいた。
「バリ・ハイ」の人々の衣裳をデザインする作業は、アジアの風俗や民族衣裳に強く関心を抱かれていた緒方さんに打って付けであるように私には感じられた。米兵の衣裳は作るよりも実物を調達する方がリアルでいいのよ……と、ニューヨークの衣裳屋さんから大量の軍服を調達されたりもした。
緒方さんとの3作品目は帝劇発のオリジナル・ミュージカルとして製作された『風と共に去りぬ』。
南北戦争を時代背景とする大河ドラマの大勢の登場人物を、当時アシスタントをされていた前田文子さんや西原梨恵さんの手を借りながら描き上げてくださった(前田さんも西原さんも今では第一線で活躍する衣裳デザイナーである)。
主人公のスカーレット・オハラを演じたのは『サウンド・オブ・ミュージック』に続いて大地真央さんで、2幕のある場面で「スカーレットのドレスの色と大道具のレット・バトラー邸の大階段の色がかち合う」と言う事件があったのだが、美術デザイナーの堀尾幸雄さんが緒方さんに譲歩して大階段は別の色に塗り替えられた。
最後にご一緒したのは三島由紀夫/作の『鹿鳴館』であった。
上記3作品とは異なり和物で、佐久間良子さん、平幹次朗さんをはじめとする錚々たるキャストの大メロドラマに相応しい華やかで重厚な衣裳を緒方さんはデザインしてくださった。
偲ぶ会は渋谷のオーチャードホールのロビーを会場として開かれた。ロビーには緒方さんがデザインされた衣裳の実物がデザイン画と共にディスプレイされていた。『サウンド・オブ・ミュージック』のマリアと『風と共に去りぬ』のスカーレットの衣裳も並んでいた。
ご冥福をお祈りいたします。
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