『TDV』2025 大千穐楽!
7月30日(水)
2025年の『ダンス オブ ヴァンパイア』が閉幕した。
3月の稽古から5か月に及ぶ長丁場を乗り切ったキャスト、オーケストラ、スタッフの皆さん、お疲れさまでした。ご観劇・ご声援くださった皆さん、心より御礼申し上げます。
東京公演の初日、カーテンコールでご挨拶くださった脚本/歌詞のミヒャエル・クンツェさんは「ヴァンパイアは空想の産物ですが、現実の世界にはヴァンパイアのような存在があり続けています。私たちはそれを許してはなりません」というようなことを話された。
その夜、クンツェさんと久しぶりにゆっくりと話す機会があったのだが(『レベッカ』の日本初演時以来……だと思う。『TDV』をご覧いただくのは帝劇初演ぶり)、その中から「抑えがたい欲望」についてのエピソードを記しておきたい。
「抑えがたい欲望」は、2幕の後半でクロロック伯爵が歌う『TDV』で最も印象深いナンバーであるが、ウィーン初演の稽古が開始された時点でこのナンバーは存在していなかったのだと言う。
「11 o’clock number」と言うミュージカル業界の用語があるのだが、これは「ミュージカルの2幕終盤で主要な登場人物によって歌われるビッグ・ナンバー」のことを言う。海外では夜公演の開演時刻が20時とか20時30分とかなので、物語のクライマックスは23時近くになっていることが少なくない。それくらいの時刻に歌われることになるナンバーなので「11 o'clock number」と呼ばれるのである。
クンツェさんの話に戻ると……『TDV』ウィーン初演では伯爵にはそれなりにキャリアのある俳優をキャスティングしていたのだが(演じたのはスティーブ・バートンだったと思う)、稽古がある程度進んだ時点で「彼にも11 o’clock numberが必要だ」という話になり、急遽発注されて初日の2週間前に出来上がったのが「抑えがたい欲望」なのだという。
私は……(とクンツェさんは続けた)伯爵はあの歌で本当のことを歌っているとは思わない。伯爵は彼ら(アルフレートとプロフェッサー)が聞いていることを承知していて、敢えて演じているんだよ。
クンツェさんからそう聞かされるまで、私は「抑えがたい欲望」をそのように解釈したことはなかった。ということは歌を聞いた後でアルフレートが「伯爵にも感情があったんですね……」と共感を寄せそうになるのは、まんまと伯爵の計略にはまったということになる。
待ってください、確認したいんですが……(と私)、じゃあプロフェッサーが「感情? くだらん!」と言ってアルフレートのつぶやきを一蹴するのは、プロフェッサーは伯爵の計略を見抜いていた……ということですか?
その通り(とクンツェさんは答えた)。
日本初演(2006年)の際に演劇評論家の扇田昭彦さんは『TDV』を「全体主義に対して警鐘を鳴らす作品」であると評してくださった。上に記したクンツェさんの初日のご挨拶と扇田さんの批評には通じるところがあるだろう。
『TDV』は伯爵の率いるヴァンパイアたちの勝利で幕を閉じるが、これは物語的にはどう考えてもハッピーエンドではない。むしろバッドエンドであるはずである。
この世界にヴァンパイアのような存在があり続ける限り、『ダンス オブ ヴァンパイア』は必ず劇場に戻ってくるだろう。
ではまた。劇場の暗闇で。


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