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『巌流島』通信

7月29日(水)

 舞台『巌流島』の、名古屋、高松、大阪、福岡の各公演の中止が発表された。
 これで『巌流島』の全公演の中止が確定した。

 7月20日(月)を最後に中断されていた稽古の跡片付けが行われている稽古場へ。
 稽古場用のシューズやダメ取り用のメモパッドなど、そのままにしていた私物を引き取る。
 私が使用していたテーブルには、21日の稽古メニューを走り書きしたポストイットがそのままになっていた。

 コロナ禍によって公演が中止に追い込まれたのはこれで4作品目である。

 まず、3月20日(金)から22日(日)までの予定で行われるはずであった日本大学芸術学部演劇学科の実習発表公演が中止となった。
 予定されていた作品はレイ・クーニー作のコメディ『パパ、アイ・ラヴ・ユー』で、2月10日(月)から稽古に入り、2幕の半ばまで進んだ頃に雲行きが怪しくなった。
 大学は1月末で後期の授業を終え春期休暇に入っていた。我々の実習もその期間を利用して稽古と本番を行うものだった。が、2月の後半に入ると世の中では感染者の数が少しずつ増え始める。政府がイベントの開催自粛要請を決めると、大学は安全を確保するために校舎内への立ち入りを制限することを決定。その措置に応じてこの授業も即時ストップ。公演はそのまま中止となった。

 次に中止となったのは丸美屋食品ミュージカル『アニー』である。
 『アニー』の東京公演は4月25日(土)から5月11日(日)までの予定で行われるはずであった。本格的な稽古は、2週間とされたイベント開催の自粛要請期間が過ぎるのを睨んで3月の中頃から始まったのだが、コロナ禍は既に拡大の一途をたどっていた。
 毎日の検温や手洗い・消毒が当たり前のこととなり、我々スタッフもマスクを着用して稽古に臨んだ。が、政府が緊急事態宣言を七都府県に発令することが確実となったことで稽古の続行は断念された。
 事態の推移を伺いつつ稽古の再開時期を探ったが、その時は訪れなかった。東京公演の中止が決定され、後に夏の地方公演も中止となった。

 中止となった3作品目はブロードウェイ・ミュージカル『ヘアスプレー』である。
 『ヘアスプレー』は東京公演が6月14日(日)から28日(日)まで、大阪公演が7月5日(日)から13日(月)までの予定となっていた。当初、歌稽古には4月の第2週辺りから入る計画であった。
 それに間に合わせるように、台本と譜面をまとめる作業が2月、3月も続けられていた。並行して舞台美術や衣裳・ヘアメイクの打ち合わせも進められていたのだが、緊急事態宣言の下では稽古のために集まることができない。
 稽古開始の延期が模索され、ひいては初日の延期も検討された。が、当初はゴールデン・ウィーク明けと目されていた緊急事態宣言の解除がなされないことが確実となり、稽古には入ることなく全公演中止の決定が下された。
 完成した台本と譜面はキャストとスタッフの手元に届けられていた。

 そして『巌流島』である。

 『巌流島』は、瀕死の劇場街が少しずつ日常を取り戻して行く動きの「最初のグループの1本」になるはずの作品であった。が、その目的は果たされることなく終わった。ようやくのことで再開に漕ぎ着けた他の劇場も常に公演中止と背中合わせである。

 新型コロナ感染症をこれ以上拡大させてはならない。では、そのために我々がなすべきこと何なのか。

 そのことをひとりひとりが考え続けなければならないだろう。

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