訃報 竹脇無我さん
竹脇無我さんが亡くなられた。67歳であった。
無我さんとは、私が20代の頃に(演出家になる以前、演出部のひとりとして)随分沢山の舞台でご一緒した。
私が東宝に入った1980年代中頃からの10年間、無我さんは、森繁久彌さんの舞台のレギュラーのひとりでいらした。森繁さんが最もかわいがっていらした俳優のひとりだったのではないかと思う。
無我さんの舞台での代表作は、何と言っても『孤愁の岸(こしゅうのきし)』であろう。薩摩藩による宝暦の治水を描いた杉本苑子さんの歴史小説を舞台化した大作で、森繁さんをはじめとするオールスター・キャストの中で、無我さんは主人公・平田靭負(ひらたゆきえ)を演じた。
『孤愁の岸』は帝劇と名古屋の御園座で繰り返し上演された。現在の「梅田芸術劇場メインホール」が「劇場飛天」の名で開場した時、杮(こけら)落とし作品として取り上げられたのも『孤愁の岸』であった。
他にも『赤ひげ診療譚』『青年』『夢見通りの人びと』『蘆火野』『拝領妻始末』『松のや露八』『レインボー通りの人びと』などでご一緒した。
飾らないざっくばらんなお人柄で、口の悪い所もあったが、それでいて繊細で優しい方であった。
最後にお目に掛かったのは森繁久彌さんの告別式の帰りであった。森繁さんの座組みで苦楽を共にした何人かでお茶を飲んだ。私は20代に戻った様な気がした。
ご冥福をお祈りいたします。
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