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2010年10月の記事

『メリー・ウィドー』通信

10月29日(金)

  『メリー・ウィドー』の稽古場へ。

  オペラ/オペレッタの世界は、芝居/ミュージカルの世界と比べると稽古のタイムテーブルが厳密である。
  稽古は午後の齣(こま)と夜の齣に分かれており、それぞれ14時から17時までと18時から21までの3時間である。稽古は時間内には確実に終わり、延長はない。大体1時間毎に小休止が入る。
  今日は午後の齣では芝居部分の読み合わせと立ち稽古、夜の齣では合唱団を加えた大勢が登場するシーンの立ち稽古であった。

  芝居部分の稽古は音楽場面に比べると遅れをとっている。が、昨日、今日で、カンパニー全体がどの方向に向かえば良いのかは随分はっきりしたと思う。
  今回の『メリー・ウィドー』は2005年版の再演である。が、単なる再演に終わらない進化した『メリー・ウィドー』にしたいと思う。その手応えは十分にある。

  明日は稽古OFF。なので稽古後、有志の20人程で親睦を深めに出掛ける。夜景のきれいな店でした。

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『メリー・ウィドー』通信

10月28日(木)

  午前中は日藝所沢へ。先週とは別翻訳の『ハムレット』。

  午後はメリー・ウィドーの稽古場へ。
  昨日まで振り付けやステージングを中心に稽古して来たのだが、今日はソリストの皆さんと歌入りで読み合わせ。
  『メリー・ウィドー』のストーリーは、他愛ない、と言ってしまえば確かに他愛ない。だが、その他愛なさを武器にして、世知辛い今の世の中では起こる筈の無い、奇跡の様なロマンティックで愉快な時間を過ごしていただこう、と言うのが我々の『メリー・ウィドー』である。
  その実現のために、この他愛ないドラマをどれだけ真剣に、心をこめて演じるか、と言ったことを中心に、場面を細かく区切りながら読み合わせた。
  ダブル・キャストの醍醐味、と言うか、それぞれのキャストの持ち味が存分に発揮され、どちらのキャストも甲乙つけがたい、素晴らしい読み合わせであった。とにかく歌声の素晴らしいことと言ったら!
  二期会では稽古場の様子などをTwitterで配信している。稽古場の写真がアップされることもあるので、覗いてみてください。

  報告ついでに、 『ウェディング・シンガー』 『風と共に去りぬ』の公式ページもリニューアルした(こちらこちら)。それぞれに動画コンテンツも用意されているので、どうぞご覧ください。

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『メリー・ウィドー』通信

10月27日(水)

  「カン・カン・シークェンス」と「フィナーレ」~「カーテン・コール」など、3幕の大勢が登場するナンバーをステージング。

  今回の『メリー・ウィドー』、出演者の数は、ソリスト、助演者、合唱団、ダンサーを合わせると、全員で83名になる。もちろんダブル・キャストになっているので一度にその人数が登場する訳ではない。が、稽古場にはほぼその人数の出演者が集合している。そこに我々スタッフが加わる。多い時は100人の人間が稽古場にひしめいている。
  今回の稽古場は、かつて小学校の体育館だった建物である。天井も高く、空間も広々としている。なので、その人数が集合しても息苦しくならずに済んでいる。逆に、これから先はだんだんと底冷えする様になるのかもしれない。

  話は変わるが、『メリー・ウィドー』がウィーンで初演されたのは1905年のことである。劇場はアン・デア・ウィーンであった。
  ミュージカル・ファンの方はもうお気付きだろうが、アン・デア・ウィーン劇場は、ミュージカル『エリザベート』が初演された劇場である。ウィーン劇場協会に所属する劇場のひとつで、落成は1801年。ミュージカル『モーツァルト!』の登場人物でもある興行師エマヌエル・シカネーダーによって建設された。因みに『モーツァルト!』の初演もアン・デア・ウィーンである。
  やや強引に話をまとめれば、『メリー・ウィドー』は、『エリザベート』『モーツァルト!』『レベッカ』『ダンス オブ ヴァンパイア』などと同じ、ウィーン・ミュージカルなのである。

  『メリー・ウィドー』の作曲者、フランツ・レハールは、シルヴェスター・リーヴァイさんの大先輩、なのであった。

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『メリー・ウィドー』通信

10月23日(土)

  今日のメニューは『メリー・ウィドー』の主人公2人のダンス場面の振り付け。2人とは、タイトル・ロールである陽気な未亡人、ハンナ・グラヴァリと、その元婚約者、ポンテヴェドロ国のパリ公使館秘書、ダニロ・ダニロヴィッチである。

  今回ハンナを演じてくださるのは、澤畑恵美さんと永吉伴子さん、ダニロ役は星野淳さんと桝貴志さんである。オペラの世界ではダブル・キャストであることが通常である。あの日生劇場でマイク無しで歌うのである。毎日では声が持たないのである。
  それはともかく、星野さんは前回の『メリー・ウィドー』でもダニロを演じてくださっている。残るお三方とは今回が初仕事である。どうぞよろしくお願いします。

  さて、『メリー・ウィドー』には「メリー・ウィドー・ワルツ」と言うロマンティックな名曲がある。主人公である2人は、当然のことながらこのワルツを歌い、ワルツなので当然のことながら踊らなければならない。しかもロマンティックに見える様に。
  そして、2人にはワルツだけではなく、「コロの踊り」と呼ばれる、祖国ポンテヴェドロの民族舞踊を踊る場面も用意されている。こちらはワルツとは打って変わって、テンポの速い軽快な踊りなので、当然のことながら軽快に、そしてどうせなら身体に馴染んだ踊りの様に見えて欲しい。
  とは言っても、そもそもポンテヴェドロという国が架空の国家なので、ポンテヴェドロの民族舞踊も振付の麻咲梨乃さんの創造の産物なのであるが。

  今日の東京は少し肌寒いくらいだったのだが、稽古場内には終始熱気が充満していた。見ているだけだった私も何だか焼けて来た程である。

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生きるべきか 死ぬべきか

10月21日(木)

 日大藝術学部の授業は9月の最終週より再開されている。

 私の受け持つ「演出実習Ⅱ」は、演劇学科演出コース1年生のための授業なのだが、今年度は例年と少し内容を変えてみている。
 今年度は、とにかく「演出をする」と言うことに比重を置いている。以前にも何度か記したが、毎週ある芝居のワンシーンを配布し、それを授業内で演出する、と言うことを続けて来たのである。
 いま学生たちが取り組んでいるのはシェイクスピア。『ハムレット』の中から、「生きるべきか、死ぬべきか」で始まる最も有名なモノローグを演出させている。もっとも、我々が使用しているテキストの翻訳は「生きるべきか……」ではない。『ハムレット』ほどの古典になると、翻訳にも様々なヴァージョンが存在し、この台詞も錚々たる翻訳者たちによって多彩な日本語に置き換えられている。
 古来、「生きるべきか、死ぬべきか」で流布してきた名台詞の原文は「To be, or not to be」であるが、この英文は如何様にも意訳することが可能であろう。そもそも芝居の台詞と言うものは、意訳(翻訳者がテキストをどう解釈したか)でないと用をなさない。

 演出実習Ⅱは来週も『ハムレット』。ただし、今日とは異なる翻訳である。さて、演出はどう変わる?

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2012年の打合せ そして『メリー・ウィドー』通信

10月20日(水)

  2012年の仕事のことでプロデューサーさんと会う。

  ミュージカルなのであるが、情報公開はまだまだ先、だろうなぁ。
  舞台(帝劇やクリエや日生劇場などでの)の準備は、大抵は1年以上前からスタートしている。企画が立ち上がるのは、公演される1年半とか2年とか前であることが多い。演出家に依頼の来るタイミングは、早い場合でその作品が企画された時点、遅いと公演時期や劇場、主要なキャストが決まった辺りで声が掛かることもある。
  何れにしても1年以上前であることが殆どで、1年を切って話が来た時には、既に他の演出家が検討されたが上手く行かなかったか、企画自体が急遽バタバタとまとめられた(或いはまとめ中)かであることが多い。
  なので、1年を切ってから依頼があった時は、慎重に話を聞いた方が無難であろう。

  夜は『メリー・ウィドー』の稽古場へ。

  快調なペースで振り付けが進んでいる。
  チラシや公式ページなどに記載はないのだが、『メリー・ウィドー』には歌のソリスト、合唱団の皆さんの他に、ダンサーさんも登場する。ダンサーさんの見せ場は3幕のカンカン・シークェンスで、今日はその振り付けが行われていた。
  ダンサーさんの中には『ダンス  オブ  ヴァンパイア』や『ラ・カージュ・オ・フォール』の出演者も混じっているので、見応えは十分である。振付の麻咲梨乃さんも、手加減することなくダイナミックなカンカン場面を作ってくださっている。

  『メリー・ウィドー』は、とにかく楽して賑やかな作品である。ご存知の方にも、初めての方にも、大いに楽しんでいただける筈である。

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東宝ミュージカルアカデミー

10月19日(火)

  東宝ミュージカルアカデミーへ。

  試演会は終わったが、年内は通常カリキュラムのクラスが週1コマ続く。5期生たちは既に2つ目のミュージカル試演会、ダンス試演会、卒業公演の準備、稽古に入っている。その合間を縫っての週1コマなので、なるべく受講生たちの負担にならないことをやりたい。
  で、「台詞」である。4期生の時にも試みたのだが、「台詞を喋ること」に特化して、残りのカリキュラムを組み立てようと考えている。
  毎週毎週新しい台詞を渡すので、それをとにかく喋ってみる。「読む」ではなく「喋る」。受講生たちには歌、ダンスだけでなく、「喋る」ことの訓練も積んで欲しいのである。

  「喋る」ことは演じることの基本だと思う。喋るためには、まず「息を吸う」からであるが。

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『メリー・ウィドー』通信

10月18日(月)

  ダンス・ナンバーの振り付けが始まる。

  オペレッタ『メリー・ウィドー』には幾つかのダンス・ナンバーがあるのだが、今日のメニューはその中のひとつ「シャンソン  グリゼットの歌」。振付は『チャーリー・ガール』でもご一緒した麻咲梨乃さんである。
  『メリー・ウィドー』の舞台は20世紀初頭のパリ。ヨーロッパのどこかにあるという設定の「ポンテヴェドロ王国」と言う名の架空の小国のフランス駐在員一行がパリで巻き起こす騒動とその顛末を描いたロマンティック・コメディである。
  「シャンソン  グリゼットの歌」は3幕の前半に登場するナンバー(と言う言い方を、オペレッタでもするのだろうか?)で、ポンテヴェドロのパリ駐在公使夫人・ヴァランシェンヌがマキシムの踊り子たちを従えて歌い踊る陽気な場面である。

  ここで言う「マキシム」とは、1893年にパリのロワイヤル通りに開店したフランス料理の名店「Maxim’s」のことである。マキシムは単なるフランス料理店ではなく、世界中から名士が集った超一流の社交場でもあった。
  その辺りのことは1958年にアメリカで製作されたミュージカル映画『恋の手ほどき』(ヴィンセント・ミネリ監督/その年のアカデミー賞を9部門で受賞)に良く描かれているので、ご興味のある方はご覧いただくとよいのだが。
  閑話休題。
  二期会の『メリー・ウィドー』では、ヴァランシェンヌも踊り子たちも、当然のことながら二期会の会員の皆さんが演じることになる。普段踊ることなどまずない方たちに踊っていただくことになっている訳で、踊る皆さんにも振付の麻咲さんにも、それなりに困難を強いている筈である。
  が、それもこれも観客を楽しませるためである、と私は思う。『メリー・ウィドー』こそ「ショー・ビジネス」である、と信じているからであるが。

  ヴァランシェンヌと踊り子たちの奮闘に温かいご声援を。

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ミュージカル試演会

10月13日(水)

  東宝ミュージカルアカデミー5期生のミュージカル試演会がいよいよ明日、明後日に迫った(8月24日の日記参照)。

  今日までひと月半の稽古を重ねてきたのだが、やれるだけのことはやった、という気持ちも、まだまだやれることがある筈、という気持ちもある。どちらにも嘘は無いのだが、本番はもう明日である。人事は尽くした、と思って、後は天命を待つしかないであろう。
  東宝ミュージカルアカデミーでは、毎年、今頃の季節にミュージカルの試演会を行っている。その以前には、夏休み前にストレート・プレイの試演会を、ミュージカル試演会の後はダンス試演会、そして卒業公演、と言うのが年間の基本的なスケジュールである。
  これらの試演会は非公開ではないのだが、会場が稽古場であり、1回にご覧いただけるのはせいぜい7~80名程度なので、広くは告知をしていない。出演者が家族や友人を呼ぶだけで、その何倍かの人数になってしまうであろう。そういう事情なので、興味を持って下さった皆さん、悪しからず。

  果たして演劇の神様は、明日、受講生たちに微笑んでくれるだろうか。浮気っぽくて不公平な神様だから、なあ・・・・・・。

  稽古後は帝劇へ。来年の帝劇100周年作品の1本『ダンス オブ ヴァンパイア』の為の秘密のミーティング。「秘密のミーティング」だから内容は秘密。

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演劇博物館

10月11日(月)

 早稲田大学へ。キャンパス内にある演劇博物館へ行くためである。

 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館は、坪内逍遥博士の古稀と、博士の翻訳による「シェークスピヤ全集」40巻の完成を記念して、1928年に設立された。早稲田大学の校内に南門から足を踏み入れると、銀杏並木をまっすぐ歩いた突き当りに、その特徴的な外観が現れる。16世紀のロンドンに実在した劇場「フォーチューン座」を模して建てられたのだと言う。
 博物館では年に何回かの企画展が行われているのだが、今日は「森繁久彌展」。9月13日に始まって、本当は10月4日で終わる筈が、好評のため会期を今日まで延長した。その最終日に、私も何とか間に合った。

 会場は1階と2階に分かれ、2階がメインとなる会場である。ここには森繁さんの出演した映画や舞台、ドラマなどの脚本やポスター、チラシ、スチール、それに森繁さん直筆の原稿などが所狭しと並べられていた。その量と質、活動期間の長さと幅広さ、どれをとっても森繁さんが他に類を見ないユニークな俳優であったことを示している。
 私は1985年の正月公演から1997の正月公演までの12年間、森繁さんの全舞台に参加した。その12年は、森繁さんの長大なキャリアの中ではほんの一部分でしかない。が、私にとっては掛け替えのない、宝物の様な12年間であった。

 会場の中で私が最も切なくなったのは、生前そのままに再現された森繁さんの化粧前であった。その両脇には森繁さんが代表作で身に着けていらした舞台衣裳。たぁやん(『佐渡島他吉(さどしまたきち)の生涯』)、テヴィエ(『屋根の上のヴァイオリン弾き』)、そして伊集院十蔵(『孤愁の岸』)である。この3人は、私の舞台人としての人格を形成してくれた大切な大切な恩人なのである。

 演劇博物館での「森繁久彌展」は、展示規模を縮小しての「Part 2」が11月14日まで行われることになっている。入場無料なので、ご興味のある方はどうぞ。

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『メリー・ウィドー』通信

10月4日(月)

  『メリー・ウィドー』の稽古場へ。

  今日は合唱の音楽稽古であった。合唱指揮は安部克彦さん。安部さんの指揮のもと、30人を超える二期会合唱団の歌声が『メリー・ウィドー』の華やかでロマンティックな楽曲を鮮やかに紡いで行く。
  稽古は実に要領良く、きびきびと進行した。演技とは異なり、音楽には「より良い形」、若しくは「正解」が存在する様に思う。音楽の責任者がイメージする音、それが即ち正解であろう。今日でいえば合唱指揮の安部さんの、今回の『メリー・ウィドー』では指揮の下野さんのイメージする音が「正解」なのだと思う。歌い手も演奏者も、その「正解」に近付くために稽古を重ねるのではないだろうか。

  今回の合唱団には、ミュージカル『ジキル&ハイド』『シラノ』などでご一緒した岩田元さん、『シラノ』に出てくださった山田展弘さん(山田さんは前回の『メリー・ウィドー』にも出てくださっていた)が加わっている。
  先日の日記に記した鎌田誠樹さんも加えて、ミュージカル・ファンの方にも興味を持っていただき易いオペレッタではないかと思う。

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さようなら 池内淳子さん

9月30日(木)

  池内淳子さんが亡くなられた。あんなにお人柄の良い方を私は他に知らない。

  池内さんと演出家としてご一緒したのは2002年の『春が来た』1本のみである。
  『春が来た』は、向田邦子さんの短編小説を舞台化した作品で、東宝がル・テアトル銀座で行う最初の公演と言う意味も持っていた。
  出演者12人の、こぢんまりとした小品であったが、評判はすこぶる良く、私もとても愛着のある作品となった。出演者のひとり、山本學さんもこの芝居に惚れこまれて、ご自身のプロデュースで再演を企画してくださったりもした。池内さんもその実現を念願していらしたのだが、遂に叶わぬこととなった。

  楽屋や稽古場で池内さんと擦れ違うと、かわいらしく手を振って駆け寄って来て下さった。あたたかで気さく、お茶目で誠実。テレビや舞台で拝見していた「日本の母親」像とはまた違った、とてもキュートな方であった。

  さようなら。池内淳子さん。心よりご冥福をお祈りいたします。

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