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谷啓さんのこと

  谷啓さんが亡くなられた。

  谷啓さんとは、2005年の9月にル・テアトル銀座などで上演された『好色一代女』でご一緒した。この時、谷さんは、“好色一代女”花子の年老いた奉公人・弥助を演じてくださった。しきりに「台詞が頭に入らないんですよ」とこぼしていらしたことが思い出される。
  私が演出家になる以前、演出部時代にも『佐渡島他吉の生涯』(1985年/東京宝塚劇場)、『レインボー通りの人々』(1992年/同劇場)でご一緒した。どちらも森繁久彌さんの主演作であるが、谷さんは『佐渡島……』では活動弁士・橘玉堂(たちばな・ぎょくどう)、『レインボー……』では出版社の社長役であった。

  『佐渡島……』の時のことである。
  当時日比谷に、輸入レーザーディスクを扱っている店があり、私はそこで、しばしば古いハリウッド映画のレーザーディスクを購入していた。その中の1枚にアメリカの喜劇俳優ダニー・ケイの主演作があったので、舞台の合間に、谷さんにそのレーザーディスクのジャケットをお見せしたことがあった。谷さんは、芸名に「たに・けい」と付ける程のダニー・ケイ・ファンである、と伺っていたからである。
  谷さんは暫くジャケットを眺められた後に、「これ、お借りしてもいいですか?」とおっしゃった。そんな展開になろうとは想像もしていなかったのだが、もちろん否やのあろう筈もない。我が国のダニー・ケイ・ファンを代表する方に、ダニー・ケイのレーザーディスクをお貸しするのである。いち映画ファンとして、これに勝る喜びがあるだろうか。因みにそれは“The Court Jester”(邦題『ダニー・ケイの黒いきつね』)であった。
  数日後、谷さんが直接レーザーディスクを戻してくださった。
  「どうもありがとうございました。」
  どんな時でも物静かな谷さんであった。

  ご冥福をお祈りいたします。

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