『THE BEST』が終演して1週間が経った。終わってから今日までがあっという間すぎて……。
ちょっとびっくりである。
大千穐楽には映画館でのライブビューイングも行われ、その幕間に私の音声も流された。2幕開演直前のほんの数分であったが、その時にしゃべったことと、用意していたがしゃべらなかったことをここに採録しておこうと思う。
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ライブビューイングをご覧の皆さま、こんにちわ。
『THE BEST』構成・演出の山田和也です。
まもなく2幕が開演しますが、それまでの時間を少しいただいて
『THE BEST』と帝劇の裏話をいくつかお話ししようと思います。
ご覧いただいている
『THE BEST』ですが、現在の構成/セットリストに落ち着くまでには様々なヴァージョンが検討され、そしてボツになりました。残されている「最初に書かれた構成案」の日付は2023年3月23日ですから……約2年前に書かれたものですね。
まだ
『THE BEST』というタイトルも決まっていなかった頃に書かれたこの「最初の構成案」には、「休憩ありの2幕構成にすること」や、「帝劇の舞台機構をフルに活用すること」、それから「緞帳とオーケストラ・ピットを使用すること」「オーケストラ・ピットをアップ/ダウンさせること」「衣裳の引き抜きのある、トニー賞のオープニングのような幕開きを作ること」、そして「客席降りをすること」などのアイデアが既に盛り込まれていました。
それらのアイデアは生き延びて、今日ご覧いただいている形に実を結びました。
ボツになった初期の案の中には「ストーリーのあるショーにする」ようなアイデアもありました。
「ストーリー」というのは、例えば「いつかは帝劇のゼロ番に立ちたいと夢見る2人の少年が、アンサンブルとして帝劇に出演するチャンスをつかみ、だんだん人気が出て出番も増えて大きな役が付いて、ついに夢を叶えるまで……を、2人の友情や挫折、恋などを織り交ぜて、様々なミュージカル・ナンバーを通して描く」……みたいなことだったんですけど、ストーリーに相応しい楽曲を選ぶのが難しくて……ボツになりました。
話は変わりますが、
『THE BEST』で歌われている「歌詞」は……この場合の「歌詞」というのは「海外で上演された作品」が翻訳上演される際に作られる「訳詞」のことなんですけど……その「訳詞」は、
『THE BEST』では、原則として「帝劇で上演された時のもの」を使用しています。
今回登場する『シカゴ』や『ピピン』『オリバー』『スウィーニー・トッド』などのナンバーが「近年上演されているものと異なる訳詞」で歌われているのはそのためなんですが、近年の訳詞に馴染んでいらっしゃる方はちょっと違和感を覚えるかも知れませんね。
1幕でご覧いただいた『ミー&マイガール』の「ランベス・ウォーク」の歌詞が、繰り返し上演されている「宝塚版」と異なっているのもそういう理由です。
さて、現在の帝劇の最も大きな特徴は「巨大な舞台機構を備えていること」です。舞台機構というのは「回り舞台」や「迫り」などの「舞台面を動かしたり変形させたりする機能を持った装置」のことをいいますが、近年では『SHOCK』などを除くと使われることが少なくなっていました。
その理由は「帝劇の舞台機構を活用して作品を作ってしまう」と帝劇以外での上演ができなくなってしまうから……なんですけど、近年は「帝劇で上演された作品が他の劇場でも上演される」ことが増えたために「宝の持ち腐れ」みたいなことになってしまったんですね。
それはつまり「こんな舞台機構を備えた劇場は帝劇以外にはどこにもない」ということなんです。こんな劇場はもう2度と建設されることは無いでしょう。
さて、まもなく2幕の開演です。最後までどうぞごゆっくりとお楽しみください。山田和也でした
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以下は「保険」として用意はしていたが時間の都合で使われなかった文章である。
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最後に緞帳のことに触れておきましょう。今日ご覧いただいている緞帳は「銀彩」という名前が付いていて、帝劇の設計を手掛けた谷口吉郎さんのデザインです。現在、帝劇にはこの緞帳しかありませんが、かつてはこの他に2枚の緞帳がありました。
ひとつは「銀彩」に対して「金彩」という名前の付いた緞帳で、これも谷口吉郎さんのデザインでした。帝劇の思い出などを書いたお手紙を募集する「帝劇レターズ」という企画が行われていて、その企画でプレゼントされる「帝劇の緞帳」はこの「金彩」を切り取ったものなんですね。
もう1枚は「緑の森とその森を映す湖、その畔を白馬が歩いている風景」が描かれている綺麗な緞帳でした。原画を描かれたのは日本画家の東山魁夷さんでした。
それぞれ緞帳にはスポンサーがついていて、スポンサー企業の名前が緞帳の隅に記されていました。現在の緞帳にはスポンサー名は入っていませんが、この緞帳にも以前はスポンサーの企業名が記されていました。
先日、用があって帝劇地下4階の大道具製作場を覗いたことがあったんですが、その時に、かつて「銀彩」を飾っていた企業ロゴが、取り外されて保管されているのを見つけて……なんだか甘酸っぱい気持ちになりました。
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以上である。
また何か記しておきたい事を思いついたら……更新するかも知れません。
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